弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が、2024年6月14日に改正された入管法について解説します。
2024年6月14日に入管法の改正案が参議院本会議で可決、成立されました。
「育成就労制度」出入国管理法など改正案 参院法務委で可決 NHK
今回の入管法改正の主な項目は以下4つです。
このページの目次
1.新たな在留資格である「育成就労」の創設
育成就労制度は技能実習の在留資格を廃止し、技能実習制度の代わりとするために設けられた制度です。
技能実習法を抜本的に改正して、技能実習法から育成就労法に改正します。
育成就労制度とは、特定の産業分野のうち就労を通じて技能を習得させることが相当なものに属する技能を要する業務に従事することを内容とします。
2.特定技能の適正化
特定技能機関(受入れ機関)が1号特定技能外国人の支援を外部に委託する場合の委託先を、登録支援機関に限るものとします。
3.不法就労助長罪の厳格化
外国人に不法就労する場合等の不法就労助長罪の罰則の引上げます。
今回の改正で、不法就労助長の罰則は、3年以下の懲役又は300万以下の罰金から、5年以下の懲役又は500万以下の罰金に引き上げられました。
4.永住許可制度の適正化
永住許可の要件を一層明確化し、その基準を満たさなくなった場合等の取消事由を追加しました。
ただし、特段の事情がない限り、在留資格を変更して引き続き在留を許可します。
現在の入管法における在留資格の取消事由はこちらにある通りです。
今国会で可決された入管法は公布の日から施行される予定であり、2027年に施行される見込みです。
今回の入管法改正の問題となっている点として、以下の点が指摘されています。
永住許可の適正化
「永住許可の要件を一層明確化し、その基準を満たさなくなった場合等の取消事由の明確化」の部分です。
これは法務大臣が永住を許可する要件として出入国管理及び難民認定法に規定する義務の遵守及び公租公課の支払いを明記し、故意に公租公課の支払いをしないこと等を永住者の在留資格の取消事由とし、永住資格の取消し事由を拡大したものです。
永住者資格は最終の在留資格となるものであり、在留資格の中で最も安定的な資格ですが、税金や社会保険の滞納を永住資格の取消し事由とするのは、永住者の法的地位を不安定にし、永住者の生活基盤を根底から覆すものとして批判が出ています。「公租公課」とは税金、社会保険料を指します。
税金又は社会保険料の支払いの未納については日本人の場合、延滞税の徴収や差し押えで対応しています。永住者にも日本人と同じように公租公課の不払いについては延滞税の徴収や差押えで対応できるのではないか、永住者に限って公租公課不払いの場合に永住資格まで取消すのは過大な処分ではないかという批判が出ています。永住者以外で在留外国人の公租公課未払いの扱いについてですが、公租公課の不払いによる在留資格の取消しについては、永住者資格以外の在留資格には規定はありません。
在留更新について規定した入管法第21条によれば、「法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可する」とあります。
更新許可の判断について入管のガイドラインによると、在留更新許可の判断において審査要件は大きく8つあります。
公租公課の支払いは、8つある審査要件のうち「独立生計要件」(日常生活において公共の負担にならず、その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること)に含まれます。
そこで在留更新申請の判断において、独立生計要件が判断されることになります。
実際の在留更新申請手続きにおける許可率はどれくらいかというと、2022年度の統計によると、どの地方出入国在留管理局でも98%から99%と100%近い許可率であり、不許可率は1~2%となっています。在留更新申請手続きではほとんどの在留更新申請が許可されています。
独立生計要件や他の審査要件に抵触するため在留更新が認められないケースは、申請全体の1~2%以内に留まっています。
現在の永住許可申請は、在留資格を有する外国人の中でも比較的収入が多く、なおかつ規定された年数(通常は5年間の間で税金の滞納がない場合に永住許可申請を行い、永住申請者の中からさらにふるいにかけられ入管が永住許可が認められており、このような厳しい審査を経て許可された永住者は、この先日本で暮らしていく中で公租公課不払い等により独立生計要件の問題が発生するとは中々考えにくく、あってもごく少数と判断できます。
今国会での入管法改正前の国会の審議の中でも、永住者が公租公課を滞納するケースが多いという事実は示さておらず、永住資格取消事由となる「故意による公租公課の不払い」が実際どのくらいあるのか調査すらされませんでした。
「故意による公租公課の支払いをしないこと」を永住資格の取消し事由とする入管法の改正については、そもそも改正の立法事実があいまい、立法目的も不明確です。
このような漠然不明確な内容の条文により、永住者の生活基盤を根底から覆す危険にさらすことは、永住者の人権保障の点からみて妥当ではなく、早急に廃止すべきだと思います。
在留資格,永住許可についてご心配なことがある方やご不安なことがある方は,専門家にご相談ください。こちらからお問い合わせいただけます。