「2023年6月の入管法改正」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が紹介します。
2023年6月に成立した改正入管法についご紹介します。
同年の改正について出入国管理局庁のHPはこちらです。
このページの目次
1.送還忌避問題
不法就労やオーバーステイなどの違法行為をした場合、退去強制すなわち強制送還の対象となります。
退去強制対象者の多数の外国人は問題なく出国するところ、一定数の外国人が出国を拒んでいる状況があり、その数は令和3年12月末時点で約3,200人、このうち約1,100人が前科を有しており、約500人が懲役1年超の実刑の前科を有しております。
このように実刑の前科があるにもかかわらず退去を拒む外国人について、現行法では、以下のような事情が外国人を強制的に退去させる妨げとなっておりました。
① 難民認定手続中の者は、送還が一律禁止
現行法では、難民認定手続中の外国人は送還が一律に停止され、申請の回数や理由等を問わず、重大な罪を犯した者であっても、退去させることができませんでした。
② 退去を拒む自国民の受け取りを拒否する国の存在
日本で、退去強制の対象となった外国人について、その外国人が退去を拒否した場合、自国民の受け取りを拒否する国が一部あり、現行法ではそのような者を母国に強制的に送還する手段がありませんでした。
③ 送還妨害行為による航空機への搭乗拒否
外国人の母国へ送還する際に飛行機の中で暴れたり、大声を上げたり、と送還の妨害をする人もおり、この場合には、機長の指示により搭乗が拒否され、退去させることが物理的に不可能になっておりました。
こうした問題を解決するために、以下のように改正がなされました。
① 難民認定手続中の送還停止効に例外規定を創設
難民認定手続中は一律に送還が停止される現行入管法の規定(送還停止効)を改め、以下の者については、難民認定手続中であっても退去させることが可能となりました。
・3回目以降の難民認定申請者の取り扱いについて
・3年以上の実刑に処された者
・テロリスト等
ただし、3回目以降の難民認定申請者でも、難民や補完的保護対象者と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出すれば、送還は停止できることになっています。
② 強制的に退去させる手段がない外国人に退去を命令する制度を創設
退去を拒む外国人のうち、次の者については、強制的に退去させる手段がなく、現行法下では退去させることができないので、これらの者に限って、日本から退去することを命令する制度が創設されます。
・退去を拒む自国民を受け取らない国を送還先とする者
・過去に実際に航空機内で送還妨害行為に及んだ者
さらに、罰則を設け、命令に従わなかった場合には、刑事罰を科すことができるようになります。
③ 退去すべき外国人に自発的な帰国を促すための措置を講ずる
退去すべき外国人のうち一定の要件に当てはまる者については、日本からの退去後、再び日本に入国できるようになるまでの期間(上陸拒否期間)が短縮されるようになります。
2.収容の長期化と仮放免制度の悪用
現行法では、退去が確定した外国人は原則退去までの間、収容施設にて収容されることになります。
収容された外国人が退去を拒否したり、難民申請の繰り返し、母国側の受け入れ拒否などで、収容期間の長期化が問題となっておりました。
このような収容期間の長期化を防止するには、収容を一時的に解除する「仮放免」制度を活用するしか方法がなく、「仮放免」が許可された外国人が逃亡するケースも多数発生し、令和3年12月末時点で約600人も逃亡しているという状況です。
こうした問題を解決するために、以下のように改正がなされました。
・収容に代わる「監理措置」制度を創設
入管法の「原則収容」制度を改め、外国人の監督をできる者を「監理人」として選任し、当該「管理人」の監理の下で、逃亡等を防止しつつ、収容しないで退去強制手続を進める「監理措置」制度が創設されます。
これにより、収容期間の長期化及び「仮放免」を受けた外国人の逃亡を防ぐことが可能となっております。
3.難民を確実に保護する制度が不十分
難民条約上、「難民」に該当するには、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見のいずれかの理由により迫害を受けるおそれがあることが必要となっています。
しかし、紛争避難民については、迫害を受けるおそれがある理由が、この5つの理由に必ずしも該当せず、条約上の「難民」に該当しない場合があります。
現行法では、こうした条約上の「難民」ではないものの、「難民」に準じて保護すべき紛争避難民などを確実に保護する制度がありませんでした。
こうした問題を解決するために、以下のように改正がなされました。
なお,難民認定手続きについてはこちらのページでも解説をしています。
・補完的保護対象者の認定制度の創設
紛争避難民など、難民条約上の難民ではないものの、難民に準じて保護すべき外国人を「補完的保護対象者」として保護する手続を創設し、補完的保護対象者と認定された者は、難民と同様に安定した在留資格(定住者)で在留できるようになります。
以上のように、これまでは、難民認定申請中は送還が認められていませんでしたが、今回の法改正により、3回以上難民申請をした人について「相当の理由」が説明されなければ、送還が可能となりました。
このように、難民ではない人が送還を免れるために難民申請を繰り返すという難民申請の「濫用」を防ぐということが、今回の法改正の最大の目的となっています。