2025年10月改正「経営・管理」ビザの新基準を徹底解説|外国人経営者は弁護士へ早期相談を

参考報道 日本経済新聞社

1 はじめに

2025年10月以降、日本で事業を経営する外国人向けの在留資格である「経営・管理」ビザ(いわゆる経営管理ビザ)の取得条件が大幅に厳格化されます。

このビザは従来、外国人起業家が比較的取得しやすい在留資格として、日本でのスタートアップを後押ししてきました。しかし一部の「経営・管理」ビザ取得者が本制度を悪用しているとの指摘を受け、日本政府は要件の見直しに踏み切りました。本記事では改正の背景と新旧要件の違い、そして新基準への対応策について分かりやすく解説します。不安な点があれば、ぜひ早めに弁護士や行政書士など専門家への相談をご検討ください。

2 改正の背景と目的

「経営・管理」ビザは、日本で会社を設立・運営する外国人のための在留資格です(旧称「投資・経営ビザ」)。このビザを取得すれば最長5年の在留が認められ、一定の条件下でご家族の帯同も可能です。また、継続的に在留すれば将来的に永住許可や日本国籍取得の道も開かれます。本来、日本への企業誘致と経済活性化を目的として設けられた制度でしたが、比較的緩やかな審査基準から近年は制度を悪用する例も指摘されてきました。例えば「ペーパーカンパニー」を設立して実態のないままビザだけ取得したり、民泊事業と称して不動産を購入し運営を他社に丸投げしたりする等のケースです。

また、現行要件の「資本金500万円」という基準は他国と比べ低額で、「500万円で日本に移住できてしまう」との誤解も生んでいました。(実際は在留資格取得費用、法人設立費用、事務所賃貸費用、備品購入等で初年度に600~800万円はかかります。)

 こうした背景から入管当局は制度の信頼性確保に向け要件の厳格化に踏み切りました。改正の目的は、ずばり以下の3点に集約できます。

  •  本気度の高い起業家の選別:一定以上の資金や経営経験を求めることで、本気で事業に取り組む人材に絞り込む狙いがあります。
  •  事業の安定性・信頼性の確保:十分な資本と人材を備えた事業のみが認められることで、日本での事業継続性が高まり、社会的信用も向上します。
  •  不正利用の防止:形式だけの会社設立や在留目的の偽装を防ぎ、制度全体の健全性を保つことが期待されています。

さらに、要件見直しには国際水準との整合性も考慮されています。円安の進行により現行の「500万円以上」という資本金要件は諸外国と比べて相対的に低くなっており、例えば韓国では同様のビザ取得に約3,000万円以上、米国でも約1,500万~3,000万円程度の投資が必要とされています。日本もこれに合わせて資金要件を引き上げることで、「本気度の高い投資家・経営者」を呼び込みたい意図があるといえます。以上の背景を踏まえ、2025年10月に経営管理ビザの上陸審査基準が大幅改正される運びとなりました。

3 新旧要件の比較と主な改正点

与党内でも厳格化の方針がとられていたとおり改正によって「経営・管理」ビザ取得のハードルは格段に上がります。

以下に従来の要件と2025年10月以降の新要件を比較しながら、主な改正点を解説します。

① 事業規模要件(資本金・職員)の変更: 従来は 「資本金500万円以上」 または「常勤職員2名以上の雇用」のどちらかを満たせばビザ取得が可能でした。

② しかし新基準では、「資本金3,000万円以上」 かつ 「常勤職員1名以上の雇用」の両方を必須要件としています。つまり資金面と人的雇用面の両方で一定規模を備えなければならない形に改められたのです。資本金要件は現行比6倍への大幅引き上げであり、常勤職員も最低1名(日本人または永住者などの在留資格を持つ人)を雇用する必要があります。なお従来規定されていた「1または2に準ずる規模」(上記要件に準じる事業規模)の項目は削除され、抜け道的な解釈はできなくなりました。

さらに経営者本人の学歴・経験要件が追加されます。新基準では、ビザ申請者本人に対して経営管理分野の高度な知識・経験を有することが求められるようになります。

具体的には「経営・管理に関する分野又は申請事業分野の修士号以上の学位」を有しているか、または「事業の経営または管理について3年以上の実務経験」があることが新たな要件として追加されました。

従来は申請者本人の学歴や経歴に明確な条件はありませんでしたが、今後は一定の専門知識か実績を持つ人物でなければ日本でのビジネス経営は認められにくくなります。

4 提出書類・審査の厳格化

必要書類の面でもハードルが上がります。

まず、事業計画書については経営の専門家(中小企業診断士や公認会計士等)による事前評価を受けたものを提出しなければならないと定められます。専門家から「実現可能性が高い」と評価された計画書でないと、申請が受理されない可能性が高まります。

また事業規模を証明する資料についても、「常勤職員の在籍証明(賃金台帳や住民票等)」および「資本金額を証明する資料」の両方を提出することが義務化されました。従来は人を雇っていない場合、資本金の資料だけで申請可能でしたが、改正後は雇用状況と資本金の両面で証拠書類を整える必要があります。そのため社員の給与支払い記録や在留カード/住民票の写しなど、より詳細な裏付け資料の提出が求められます。加えて申請人の経営経験を証明する書類(例えば在職証明書や会社の登記簿など)も新たに必要となる見込みです。こうした書類面の強化によって、実際に事業を行う意思と能力があるかを入管当局が厳しくチェックできるようになります。

  • ・日本語能力要件の追加(新たな条件): 政府は改正案の施行直前になり、日本語コミュニケーション能力に関する条件も追加する方針を示しました
  • ・具体的には、申請者本人または常勤スタッフの少なくとも1名が「相当程度の日本語能力」を有することを求める方向です。
     目安としては国際基準で上から3番目のレベルに相当する B2(中上級)程度の日本語力 が必要になる見込みと報じられています。この条件は地域社会との円滑なコミュニケーションを図り、「日本でビジネスを営む以上、言語面でも一定の適応力が必要」という趣旨で導入されるものです。なお、日本語要件は雇用するスタッフで補完しても構わないため、例えば日本人従業員や日本語堪能な永住者スタッフを1名以上雇えば、この条件はクリアできるとされています。

以上が主な改正点です。

特に資本金要件の6倍引き上げと高度人材要件の追加は、外国人起業家にとって極めて大きなハードルとなるでしょう。

現在日本で経営管理ビザを保持する約4万1,600人のうち、資本金3,000万円以上の企業は全体のわずか約4%に過ぎません。この事実からも、新基準で求められる事業規模がいかに大きいかがお分かりいただけると思います。要件を満たせない場合、新規でビザを取得するのはもちろん、既にビザをお持ちの方でも更新が非常に厳しくなることが予想されます。まさに制度の趣旨通り、「本格的な経営基盤を持つ人材」だけが選別される形に移行するのです。

5 改正が及ぼす影響と今後の注意点

今回の改正は、日本での起業を目指す外国人や現在経営管理ビザで在留中の方々に大きな影響を与えます。まず、新規取得希望者にとっては参入障壁の急上昇です。

従来は500万円程度の自己資金でも小規模スタートアップに挑戦でき、多様な外国人が日本市場に参入してきました。しかし3,000万円という資本金水準は、中小企業にとっても負担が重く、個人や小規模での起業を考えていた外国人には非常に高いハードルとなります。十分な資金調達と雇用計画を用意できない限り、もはやビザ申請自体が難しくなるでしょう。

 また既存のビザ保持者にとっても油断できません。在留資格の更新審査が今後一層厳しくなる見通しです。実際、2025年7月からは経営管理ビザ更新申請時に「直近の在留期間における事業活動の内容説明文書」の提出が義務化されるなど、既に審査強化が始まっています。入管はこの文書を通じて、申請者が本当に事業を継続的に運営していたか、当初の事業計画どおりにビジネスが進んでいるかを詳細に確認するようになりました。売上や利益が極端に低いケースや、事業実態が乏しいと判断されれば、不許可やビザ取り消しも現実に起こりえます。今回の上陸基準改正に伴い、「更新だから大丈夫」という考えは通用しなくなる可能性があります。

 では、この厳格化された環境で外国人起業家が取るべき対策は何でしょうか? まず何より重要なのは、早め早めの準備と専門家の活用です。具体的には以下のポイントに留意してください。

  • 十分な資金計画: 資本金3,000万円を一度に用意することが難しい場合、出資者を募る、融資を検討する等の資金調達プランを立てましょう。資本金要件を満たせないと申請の土台に立てないため、金融機関との連携や出資交渉を早期に始めることが肝心です。
  • 人材確保と雇用計画: 信頼できる常勤スタッフを少なくとも1名は確保してください。日本人や永住者など適切な在留資格を持つ人材を雇用し、社会保険の加入手続きも整備しておく必要があります。雇用契約書や給与支払いの証跡も求められますので、採用後は労務管理を適切に行いましょう。
  • 事業計画書のブラッシュアップ: 改正後は、中小企業診断士等の専門家のお墨付きを得た事業計画でなければなりません。事業の収支見通しや市場分析を綿密に行い、実現可能性の高い計画書を作成しましょう。専門家から評価を受ける際に備え、計画の根拠データや仮定も論理的に説明できるよう準備します。
  • 学歴・職歴証明の用意: ご自身の学位証明書(卒業証明書や学位記)や、過去の経営経験を示す資料(勤務先での在職証明、関与していた事業の登記簿謄本・決算書など)を早めに収集してください。証明書類の取得には時間がかかる場合もありますので、渡航前から手配しておくことをおすすめします。
  • 日本語能力への対応: 日本語要件が正式に導入された場合に備え、日本語力の底上げも重要です。ご自身で勉強を進めるのはもちろん、日本語堪能なスタッフを採用することも一つの方法です。地域社会との関係構築やビジネス上のコミュニケーション円滑化にも日本語力は役立ちますので、前向きに取り組みましょう。

以上の準備を着実に行うことで、新制度下でも経営管理ビザ取得・更新の可能性を高めることができます。

新要件では「より安定的で持続可能なビジネス」が日本に根付くことが期待される反面、若手起業家や留学生がいきなり独立するのは難しくなるとも言われています。

しかし裏を返せば、十分な計画と体制を整えれば引き続き日本で事業展開の道は開かれているということでもあります。

実際、改正後も日本での起業を成功させている外国人は必ずいます。

要は事前準備と適切なサポートでリスクを管理し、入管基準をクリアしていくことが肝心なのです。

6 困ったときは専門家への相談を

 改正内容を踏まえ、「経営・管理」ビザ取得・維持の難易度が格段に上がることはお分かりいただけたかと思います。「条件を満たせるか不安…」「更新審査に通るか心配…」と感じている方は、ぜひ一人で抱え込まずに専門家へ相談してください。ビザ手続に詳しい弁護士や行政書士であれば、最新の法令に基づいた適切なアドバイスとサポートを提供できます。当ブログを運営する弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所でも、経営管理ビザに関するご相談を随時受け付けております。制度改正への対応策や個別事情に応じた対処法など、プロの視点からしっかりサポートいたします。

2025年10月以降、経営管理ビザの審査基準はこれまでになく厳しいものとなりますが、正しい準備と専門家の助力があれば乗り越えることは可能です。不安なことがあれば早めにご相談いただき、新しい制度下でも安心して日本で事業に専念できるよう、一緒に対策を講じていきましょう。専門家との連携により、新たなハードルも決して越えられないものではありません。どうぞお困りの際はお気軽にお問い合わせください。私たちが全力でサポートいたします。

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