外国人労働者の数は年々増加し、令和6年(2024年)10月末時点で約230万人と過去最多を更新しました。中小企業の皆様にとっても、外国人材の採用機会が確実に増えています。しかし、法的ルールを知らずに対応すると取り返しのつかないリスクを招く恐れがあります。本記事では専門的な法律知識がなくても分かるよう、外国人労働者を採用・面接する際に押さえておきたいポイントを平易な言葉で解説します。特に人材派遣業の企業の方には、違反があれば次回の派遣許可が更新できなくなったり、最悪の場合許可取消しにつながり得るリスクについて、ぜひ知っておいていただきたいところです。
このページの目次
外国人雇用に関する基本的な法的ルール
外国人を雇用する際には、大きく分けて 入管法(出入国管理及び難民認定法)と 労働法 の2つの観点から守るべきルールがあります。
入管法上のポイント(在留資格の確認)
まず最も重要なのは、採用しようとしている外国人が適法に就労できる在留資格を持っているか確認することです。在留資格によって日本でできる活動内容(職種や勤務時間など)が決まっており、原則として就労可能な在留資格は約20種類存在します。それ以外の資格(例えば「留学」や「家族滞在」など)の場合、別途「資格外活動許可」を得ていなければ報酬を伴う労働はできません。
必ず採用前に在留カードを確認し、就労制限の有無をチェックしましょう。万一、許可されていない資格外の職種で働かせてしまった場合、企業側も「不法就労助長罪」という犯罪に問われる可能性があります。
例えば、留学生のアルバイトが週28時間の制限を超えて働いてしまった場合や、観光ビザの人を誤って雇用してしまった場合などは「不法就労」に該当します。そのようなケースでは、経営者が「知らなかった」では済まされず、処罰の対象となります。不法就労助長罪の罰則は3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可能)と非常に重いものです。
近年は「違法と知らなかった」という事業者に対する摘発も増えており、取締りは一層厳しくなる傾向にあります。実際、2024年8月には「2年間で延べ1万8千人もの外国人を違法に派遣した」として人材派遣会社の経営者が逮捕される事件も報じられています。人手不足を言い訳にして違法状態を見逃せば、経営者自身が逮捕・起訴される深刻な事態を招きかねません。
また、外国人を雇用した場合や離職した場合には、役所への届出義務がある点も入管法上の重要ポイントです。事業主は外国人を新規に雇い入れたとき翌月の10日までに、離職したときは離職日の翌日から起算して14日以内(※ハローワーク提出の場合は10日以内)に、氏名・在留資格・在留期間など所定の事項をハローワーク(公共職業安定所)へ届け出なければなりません。この 「外国人雇用状況の届出」 を怠ると、30万円以下の罰金に処される可能性があります。中小企業ではつい失念しがちな手続きですが、法律上の義務ですので確実に実施しましょう。
労働法上のポイント(労働条件・差別の禁止)
次に労働法の点です。外国人であっても日本国内で働く以上、日本人と同様に労働関係法令が適用されます。最低賃金・労働時間・安全衛生など労働基準法や労働安全衛生法の規定は外国人にもそのまま適用され、当然ながら遵守が必要です。特に重要なのは労働基準法第3条で国籍等を理由とする差別的取扱いが明確に禁止されている点です。
企業が「外国人だから」という理由で賃金を低く設定したり、労働条件を不当に悪くしたりすることは許されません。雇用形態に応じた社会保険や労働保険の加入義務も日本人と同様に発生します。例えば一定の勤務条件を満たした場合、雇用保険や健康保険への加入は外国人社員にも必要ですので、日本人社員と同じ基準で適用しましょう。
さらに、安全管理の面でも言葉の壁への配慮が求められます。職場のルールや安全教育は可能であればやさしい日本語や母国語の資料を用意するなど、外国人労働者に十分理解してもらえる工夫をしてください。外国人労働者も「労働者」である以上、法の保護を受ける権利があります。日本人と平等に扱い、公正な処遇を行うことが基本中の基本です。
面接時に注意すべきポイント(NG質問と配慮事項)
次に、採用面接の場面で気を付けるべきポイントです。面接では応募者と直接対話しますが、その中には聞いてはいけない質問や特に配慮が必要な事項があります。不適切な対応は直ちに犯罪とはならなくても、差別的な取扱いとしてトラブルに発展する可能性があります。ここでは代表的なさけるべき質問の例を確認しましょう。
- 本籍・出身地や国籍に関する質問: 「ご出身はどちらですか?」「ご両親の生まれた場所は?」といった本人の努力では変えられない属性に関する質問は、公正な採用の観点から避けるべきとされています。外国人の応募者に対して安易に出身国や民族的背景を聞くことは、差別につながるおそれがあります。採用選考上、本当に業務上必要な範囲(例:在留資格の有無確認)に留め、雑談のつもりでも深入りしないよう注意しましょう。
- 家族構成や婚姻状況に関する質問: 「ご家族の職業は?」「結婚の予定はありますか?」といったプライバシーに関わる質問も望ましくありません。特に外国人の方の場合、日本に家族がいるかどうか聞きたくなるかもしれませんが、これは本人の適性や能力と無関係であり、不安やプレッシャーを与えてしまいます。必要以上に家庭の事情を尋ねないようにしましょう。
- 宗教や信仰に関する質問: 「信仰している宗教はありますか?」といった質問は、日本人相手でも認められませんが、外国人応募者の場合は特に配慮が必要です。宗教は本来自由であり、それを理由に採否を判断することは許されません。仮に勤務上考慮が必要な宗教的行事や習慣があるとしても、採否決定とは切り離し、雇用後に労務管理上の相談事項として扱うべきです。
- 政治的意見や信条に関する質問: 「支持政党は?」「社会問題をどう思いますか?」といった質問も不適切です。応募者の思想・信条の自由を侵しかねず、公正な選考を阻害します。外国人応募者の場合、出身国の政治情勢など話題に上りがちですが、自社の業務に直接関係ない限り立ち入らないようにしましょう。
以上のように、本人の適性・能力と関係のない事項(本人に責任のない事項や本来自由であるべき事項)について質問しないのが原則です。これらの質問をしたからといってすぐ罰則が科されるわけではありません。しかし応募者に不信感を与えたり、企業イメージの悪化を招いたりするリスクがあります。実際、昨今は面接での不適切な対応がSNS等で拡散し、企業が厳しい批判を受けるケースもあります。さらに採用過程で不当な差別があった場合、後になって不採用者から損害賠償を求められたり、労働局から行政指導を受ける可能性もゼロではありません。面接では職務に関連する事項に集中し、終始公正な態度で臨むことが大切です。必要に応じて、外国人応募者にはゆっくり明瞭な日本語で話したり、専門用語を避けたり、資料を見せながら説明するなどの配慮も心がけてください。言葉のハンディを理由に不利な評価をしないよう、公平な選考を行いましょう。
違反した場合のリスク(許可更新拒否・事業停止・免許取消し等)
では、万が一法律に違反してしまった場合にどのようなリスク(罰則や行政処分)があるのか、具体的に確認します。特に人材派遣業を営む企業の皆様に知っていただきたい重大リスクです。
刑事罰のリスク(不法就労助長罪など): 先述のとおり入管法違反の不法就労助長罪に問われると、事業主個人に対し3年以下の懲役または300万円以下の罰金(またはその両方)が科される可能性があります。これは企業犯罪として経営者が逮捕・起訴される事態です。実際に逮捕者が出たケースも多数報道されています。「人手が足りなくてつい…」という言い訳は通用せず、違反発覚時には経営者個人としての刑事責任が厳しく問われるでしょう。
許可の更新拒否・事業停止命令: 人材派遣業を行うには国(厚生労働省)から許可を受ける必要がありますが、法令違反を犯した企業は次回の許可更新が認められない可能性があります。派遣業の許可は有効期間ごとに更新申請が必要ですが、更新時の審査で法令違反が判明すると更新不許可となり事業継続ができなくなります。また、重大な違反の場合には更新を待たずとも行政処分として一定期間の事業停止命令が下されることもあります(労働者派遣法第14条第2項)。事業停止命令を受ければ、その期間中は新規の派遣契約はおろか場合によっては既存契約も継続できなくなり、企業経営に大打撃となります。
許可の取消し(免許取消し): 最も深刻なのは許可そのものの取消しです。実際に、入管法違反で有罪判決を受けたことが原因で派遣業の許可を取り消された事例もあります。前歴が付けば労働者派遣事業の欠格事由となり、許可取消処分は免れません。一度許可を失えば即座に派遣事業は継続不可能となり、会社の信用も失墜します。派遣会社にとって入管法違反はまさに命取りと言えるでしょう。事実、2017年11月から2020年12月の約3年間で入管法違反を理由に19件もの派遣事業許可取消し処分が実施されています。違反は決して他人事ではなく、業界全体で現実に起きている問題なのです。
このように、外国人労働者の不適正な雇用は刑事罰だけでなく行政上の処分にも直結します。特に昨今は外国人雇用に関する取締りが非常に厳しくなっており、「知らなかった」では済まされない時代です。悪質なケースはもちろん、たとえ少人数であっても一件の違反が企業存続に関わることを強く認識してください。ひとたび違反が疑われれば入管当局や労働局から調査が入り、企業名の公表や信用失墜にもつながりかねません。中小企業にとって法令違反は事業停止・廃業に直結しうる大きなリスクですので、「うちは大丈夫」と過信せず最新の注意を払ってください。
過去の具体例・想定シナリオ
ここで、いくつか具体的な事例に触れてみましょう。実際に起きたケースや起こり得るシナリオを知ることで、自社の状況に置き換えて考えるきっかけになります。
- 事例1: 派遣会社が許可取消し処分に至ったケース – 留学生など本来就労できない資格の人を工場や建設現場に違法に派遣したとして、派遣会社の経営者が有罪判決を受け、労働者派遣事業の許可が取消されました。中小の派遣会社でありがちなのは「短期のアルバイトだから大丈夫だろう」と安易に考えて資格外活動の留学生や資格のない外国人を働かせてしまうことです。一度摘発され有罪になれば前科が付き、前述のとおり派遣業の免許も失います。許可を失えば事業継続は不可能であり、会社は実質的に倒産に追い込まれてしまいます。
- 事例2: 面接時の何気ない一言が炎上したケース – 中小企業A社で外国人応募者を面接した際、面接官が世間話のつもりで「ご両親はどんな方ですか?」「日本にはいつ来られたのですか?」と質問しました。応募者は差別的に詮索されていると感じ不快感を抱き、不採用となった後に「A社の面接官は外国人に対して失礼な質問をする」とSNSに投稿しました。この投稿が拡散してA社のHPや問い合わせ窓口に批判的な意見が殺到し「炎上」してしまいます。結局A社は公式に謝罪する事態になり、採用活動にも支障が出ました。このように、面接での何気ない一言が企業の信用リスクにつながることがあります。法的な罰則はなくとも、企業イメージの低下という大きな代償を払う可能性があるのです。
- 事例3: 労働条件の差別が指摘されたケース – 中小企業B社では、外国人社員に対して日本人社員より低い賃金を提示して雇用していました。理由は「未経験だから」「日本語が十分ではないから」でしたが、当の外国人社員は不当だと感じ労働基準監督署に相談しました。調査の結果、B社の対応は労基法3条の趣旨に反する恐れが高いとして是正指導が行われます。B社は慌てて賃金体系を見直しましたが、社内には不信感が残ってしまいました。外国人だからと待遇を下げれば、必ず不満やトラブルの火種となります。社員の士気や会社の評判を落とし、優秀な人材の流出にもつながりかねません。
これらの例から学べるのは、「知らなかった」「悪気はなかった」では済まないということです。不法就労を見逃せば刑事罰・免許取消し、面接での無神経な質問は信用失墜、労働条件の差別は監督署の介入と、いずれも企業にとって大きな痛手となり得ます。こうした事態を避けるためにも、次の章で述べるチェックポイントをぜひ押さえておきましょう。
外国人雇用を正しく行うためのチェックポイント
最後に、外国人雇用を適法かつ円滑に行うためのチェックポイントをまとめます。採用前から採用後まで、一貫して以下の点を確認しましょう。
- 在留カードの確認: 採用内定時には必ず在留カードを本人から提示してもらい、在留資格と在留期間をチェックします。必要に応じて資格外活動許可の有無も確認しましょう。カードのコピーを取り、有効期限や就労制限事項を社内で記録・共有しておくことが重要です。
- 在留資格と業務内容の適合: 応募者の在留資格で従事可能な職種かを確認します。例えば在留資格が「技術・人文知識・国際業務」の人に単純作業をさせることはできませんし、「技能実習」の外国人を派遣社員として受け入れることもできません。予定している業務内容が資格の範囲に収まらない場合、採用前に在留資格の変更手続きが必要になります。
- 外国人雇用状況の届出: 前述のとおり、雇用後は速やかにハローワークへの届出を行います。これは全ての事業主に課された義務です。担当者任せにせず、経営者自身も届出が確実に行われているかチェックしてください。虚偽報告や届け出忘れのないよう注意しましょう。
- 労働条件通知書の交付: 採用する際は日本人と同様に労働条件を書面で明示します(雇用契約書や労働条件通知書の交付)。その際、可能であれば多言語版を用意したり、やさしい日本語で補足説明を付けたりして、本人が内容を十分理解できるよう工夫します。就業規則や社内ルールについても、ポイントを絞って初日にオリエンテーションを行いましょう。
- 公平な処遇と研修: 賃金や待遇は能力・経験に応じて決定し、国籍を理由に差別しないようにします。同じ職場で働く日本人社員との不公平感がないよう留意してください。また、日本の職場での基本的なルールやマナーについて、外国人社員向けに研修や説明の機会を設けると良いでしょう。現場の日本人社員にも、多様な文化背景を持つ仲間を受け入れる意識づけを行い、互いに協力できる環境作りを心がけてください。
- 在留期間の管理と更新サポート: 外国人社員の在留期間(ビザの有効期限)を社内で把握し、更新が必要な場合は余裕をもって本人に案内します。更新手続きに不安があれば行政書士や弁護士など専門家を紹介してあげるなど、企業としてサポートする姿勢も大切です。万一更新漏れで在留資格を喪失すると働けなくなるだけでなく不法滞在となってしまうため、注意が必要です。
- 法改正情報の収集: 入管法や労働関係法令は適宜改正が行われます。例えば近年では新たな在留資格「特定技能」の創設や技能実習制度の見直しなどが話題です。日頃からニュースや行政発表にアンテナを張り、最新情報を入手しましょう。その上で、自社の就業規則や社内マニュアルもアップデートし、法令遵守に抜かりがないようにします。
以上のチェックポイントを実践すれば、外国人雇用に関する法的リスクは大幅に低減できるはずです。ポイントは「最初にきちんと確認・手続し、その後もフォローを怠らないこと」に尽きます。適切に対応すれば、外国人スタッフにも安心して働いてもらえますし、企業としても法令遵守の下で事業を拡大していくことができます。
おわりに
外国人材の採用・雇用は中小企業にとって大きなチャンスである一方、関連する法的ポイントを踏まえて進める必要があります。不安な点があれば、ぜひ専門家に相談してみてください。当事務所 「弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所」 には企業法務や刑事事件に精通した弁護士が多数所属しており、全国にネットワークを展開しています。入管法や労務管理など外国人雇用に関する法的支援も積極的に行っており、中小企業のコンプライアンス体制構築やトラブル対応をサポートしています。
万が一「これは違反だろうか?」といった事態に直面した場合のご相談はもちろん、問題発生を未然に防ぐための事前アドバイスも承っております。企業の健全な発展には法令順守が不可欠です。ぜひ専門家の力も活用しつつ、安心して外国人雇用に取り組んでいただければ幸いです。
