外国人が日本で新たに会社を設立し、その後すぐに在留資格「経営・管理」(いわゆる経営管理ビザ)を取得するためには、日本における会社設立のための手続きと、ビザ取得のための入国管理上の手続きを通過し、両方の要件を満たす必要があります。
本記事では、その具体的な流れとポイントを実務的・法的観点から分かりやすく解説します。
会社設立の基本から経営管理ビザ申請までを順を追って説明し、よくある失敗例や審査のチェックポイントも紹介します。ぜひ参考にしてください。
このページの目次
1. 外国人が日本で会社を設立するための基本的な流れ
会社形態の選択
日本で設立できる代表的な会社形態には、株式会社と合同会社があります。
それぞれ特徴がありますが、どちらも外国人が発起人・役員となることが可能です。
以前は「代表取締役のうち少なくとも1名は日本に住所を有すること」という要件がありましたが、2015年の法改正以降は代表者全員が非居住者(海外在住者)でも会社設立が可能となりました。
日本に住んでいない外国人だけで株式会社や合同会社を設立することもできます。
資本金は法律上1円からでも設立可能ですが、ビザの取得要件からすると後述の通りまとまった資本金を用意する必要があります。
株式会社
発起人が出資して株式を引き受け、取締役などの役員を置く形態です。
社会的信用度が高い傾向にあり、日本では一般的な会社形態です。
設立時に公証人による定款認証が必要で、登録免許税は資本金額の0.7%(最低15万円)です。決算を公告する義務があります。
合同会社
出資者=社員(経営者)となる持分会社形態です。
定款認証が不要で、設立コストを抑えやすく柔軟な経営が可能です。登録免許税は資本金額の0.7%(最低6万円)と株式会社より安く、決算公告義務もありません。
迅速・低コストで設立できますが、対外的信用力では株式会社を好む取引先もあります。
基本的な設立フロー
日本人が会社を設立する場合とほぼ同じ手順で進めます。概略は次のとおりです。
まず事業内容や会社名(商号)、本店所在地、事業目的、役員構成、資本金額など会社の基本事項を決め、それに基づいて定款を作成します。
定款は会社の憲法となる書面で、会社形態に応じた必要事項を日本語で盛り込みます。外国人が発起人の場合でも定款は日本語で作成する必要があります。
日本人であれば発起人や役員は印鑑登録証明書を提出しますが、外国人の発起人・役員には日本の印鑑証明書がありません。
そのため、それぞれの署名証明書(サイン証明書)を本国の公的機関や在日大使館で取得し提出します。また会社代表印(実印)も作成しましょう。
株式会社設立時は公証役場で定款の認証を受けます。公証人に予約を取り、発起人全員の署名(または押印)済みの定款と必要書類を提出し、認証手数料(資本金の額によって3~5万円)と収入印紙代4万円(電子定款なら不要)を支払います。
合同会社は定款認証不要です。
定款認証後(または合同会社では定款作成後)、発起人代表者の個人口座に資本金を振り込みます。通帳の写し等で払い込み証明を作成します。
発起人が日本非居住者の場合、日本の銀行口座を持っていないことが多く、資本金の払込が難しくなります。
司法書士など専門家に相談し、代理人名義の口座を活用する、共同発起人の口座を利用するなどの方法で対応するケースが一般的です。
この点の詳細は後述「注意点」で説明します。
資本金払い込みが確認できたら、必要書類一式を揃えて法務局で設立登記を申請します。
提出書類には定款、発起人決議書、就任承諾書、資本金払込証明書、各発起人・役員の印鑑証明書または署名証明書などがあります。登録免許税もこの時点で納付します。
申請先は本店所在地を管轄する法務局です。登記申請が受理されると、約1〜2週間で会社が法人として成立し登記完了となります。
登記が完了したら、税務署等への届出を行います。
具体的には本店所在地所轄の税務署に法人設立届出書を提出し、都道府県税事務所・市区町村にも法人設立の届出が必要です。
また社会保険・労働保険の加入手続き(従業員や代表者に給与を支払う場合)や、業種によって必要な営業許可の取得も行います。これらは法定期限内に漏れなく対応しましょう。
以上が会社設立までの大まかな流れです。
外国人だからといって手続きそのものが大きく異なるわけではありませんが、印鑑証明の代替書類や資本金払込の工夫など、外国人特有のポイントがあります。
2. 法人設立手続きの重要ポイント(事務所確保・定款認証・登記)
事務所(オフィス)の確保
日本で会社を登記するには、本店所在地となる事務所住所が必要です。
自宅やレンタルオフィスでも登記自体は可能ですが、後述の経営管理ビザ申請では「事業所の実態」が必要です。つまり、物理的な事務所スペースを確保する必要があります。
賃貸物件の場合、契約名義を会社(または代表者個人)とし、事業用途で使用する許可を得てください。
自宅を事務所にする場合でも、郵便受けや玄関に社名表示を行い、内部に業務用の机・PCなど必要設備を備えるなど、オフィスとしての体裁を整えることが重要です。
実際に、登記上本店を置いた住所が単なる居宅で、社名看板も備品もない状態だと入管の調査で「実態なし」と判断され不許可となることがあります。
こうした失敗を防ぐためにも、事務所は可能な限りビジネスに相応しい環境を用意してください。
バーチャルオフィス(郵便転送のみ)は登記可能でもビザ審査では認められない可能性が高いため避けるべきです。
定款の作成と認証
定款には会社の基本情報を盛り込みますが、目的欄には予定する事業内容を漏れなく具体的に記載しましょう。
経営管理ビザ申請時にも事業内容を示す資料として定款のコピーを提出することが求められるため、ビザ取得後に行う事業と矛盾がないよう注意が必要です。
株式会社の場合、公証役場での定款認証が必要です。
認証の際、発起人全員のサイン(署名証明書添付)や身分証明書が求められます。外国語の定款は認証してもらえないため日本語で作成します(必要に応じて逐語訳を用意するとよいでしょう)。
電子定款を利用すれば印紙代4万円が節約できますが、電子認証には事前準備が必要です。定款認証が完了したら、公証人から認証済み謄本を受け取ります。
資本金の払込みと証明
前述のとおり、発起人代表の日本国内銀行口座に資本金を振り込み、その証明書類を作成します。
外国人のみで設立する場合、ここが一つの難関です。日本では非居住者が銀行口座を開設することは困難であり、口座開設には日本在住の代表者が求められるケースがあります。
対応としては、
- 日本在住の協力者(共同発起人や代理人)に一時的に資金を預けて払込証明書を作成する
- 日本に進出している外国銀行の口座開設サービスを利用する
- 設立手続きを専門家に依頼し適切な代替措置を講じてもらう
──等が考えられます。
資本金額については後述のビザ要件を満たすため最低500万円以上に設定することが一般的ですが、払込後もその資金を事業に充てず安易に引き出すと、ビザ更新時に事業継続性に疑義を持たれるため注意してください。
資本金は会社の銀行口座開設後に移し替え、事業運転資金に充てていきます(開業当初の設備投資や運転費用にもなる重要な資金です)。
設立登記と会社実印の届け出
法務局へ登記申請を行う際は、必要書類に不備がないか慎重に確認します。
特に外国人発起人・役員の場合、署名証明書の添付漏れがないか、氏名・住所の表記間違いがないか注意してください。
登記申請書類一式(定款認証謄本、就任承諾書、払込証明書、印鑑届出書など)を提出すると、審査を経て会社設立登記が完了します。登記が受理された日が会社の成立日となり、その後「登記事項証明書(履歴事項全部証明書)」と「会社印鑑証明書」が発行できるようになります。
会社実印は登記と同時に法務局に届出るため、以後公式書類には会社実印を押印し、印鑑証明書を添付して使用します。
登記後の手続き
登記が完了したら、速やかに税務署や役所への届出を行います。具体的には、税務署へ法人設立届出書・青色申告承認申請書などを提出し、都道府県税事務所と市区町村役場にも法人設立届を出します。
社会保険については、代表者に給与を支給する場合や従業員を雇用する場合、年金事務所で健康保険・厚生年金の新規適用手続きを行い、労働基準監督署とハローワークで労災保険・雇用保険の加入手続きをします(従業員を雇う場合)。
また、飲食業や古物営業など業種によって必要な営業許可・資格の登録があれば、所轄官庁や警察署で申請手続を行いましょう。これらの行政手続きは忘れやすいので、チェックリストを作成して対応すると安心です。
3. 経営管理ビザ(在留資格「経営・管理」)の取得要件
日本で会社を設立しただけでは、外国人はその会社を運営するために働くことはできません。
会社経営を行うには「経営・管理」の在留資格、いわゆる経営管理ビザの取得が必要です。
このビザを取得するには、入国管理局(出入国在留管理庁)が定める上陸許可基準を満たす必要があります。
主な要件は次のとおりです。
事業所の確保
日本国内に事業を行うための事務所用施設が確保されていること。
自宅の一室でも構いませんが、賃貸契約書や不動産登記簿などで所在地を証明でき、事業に供されている実態が求められます。
ビザ申請時には賃貸借契約書の写しや事務所の写真なども提出するため、単なる登記上の住所でなく実際に事業を営む場所を用意しましょう。
事業規模の要件
次のいずれかを満たす必要があります。
- 常勤職員を2名以上雇用していること(その職員は日本人または永住者など就労制限のない在留資格者)
- 事業に投入される資本額・出資金が500万円以上であること
※通常は後者の資本金500万円以上を準備するケースが圧倒的に多いです。
なお、この「500万円以上の投資」とは単に口座に資金を置くだけでなく、事業運営に必要な総投資額を指します。例えば事務所の賃借費用、従業員への給与、備品購入費用など事業に投入した費用も含めて合計500万円以上であれば基準を満たし得ます。
審査では資金の出所や使途も重視されますので、資本金の準備だけでなく実際の事業計画に沿った資金使途計画を立てることが重要です。
経営への実質的関与
ビザ申請者本人がその事業の経営または管理に実質的に参画していることが必要です。単に出資するだけで普段の経営に全く関与しない場合、この在留資格は認められません。
つまり投資家ではなく、自ら経営判断を行う立場であることが求められます。申請時には会社の役職(例:代表取締役)や職務内容を明示し、事業計画書等で申請人がどのように経営に携わるか示す必要があります。
経営管理経験(必要な場合のみ)
申請人が「経営者」ではなく雇われ管理者として招聘されるケースでは、3年以上の経営または管理の実務経験が要件となります。
この3年には日本又は外国の大学院で経営・管理分野を専攻していた期間も含めることができます。
またこの場合、日本人が受けるのと同等額以上の給与報酬を受けることも条件です。
もっとも、自分で出資して自分で会社を立ち上げた起業家(出資者兼経営者)の場合はこの実務経験が必須とはされていませんが、経営管理の知識や経験が皆無だと事業の安定性に不安があると見做される可能性もあるため、申請書類上で自身の経歴や適性をしっかりアピールすると良いでしょう。
事業の継続性・安定性
明文化された要件ではありませんが、審査実務上は会社の事業計画が十分に安定・継続可能かも重視されます。
設立した会社が一時的なペーパーカンパニーではなく、中長期的に事業を行える見込みがあるか、売上計画や収支見通し、契約予定などを総合的にチェックされます。
特に初年度から赤字垂れ流しの計画だと更新許可が下りにくいため、収支バランスの取れた計画を提示することが重要です。
以上が経営管理ビザ取得の主な条件です。
要件を満たせば、最初は通常1年の在留期間が付与されます(事例によっては4か月の短期ビザが発給され、後述のとおり更新で1年に延長するケースもあります)。
なお、近年は外国人起業家の誘致を目的に、東京や福岡など一部自治体で「スタートアップビザ」制度が設けられています。これは入国時点では経営管理ビザの要件を満たさなくても、自治体の審査による確認書を得ることで特例的に最長6か月間の経営・管理ビザ(または特定活動ビザ)が認められる制度です。
例えば東京都の制度では、入国前に東京都が事業計画書を審査し確認書を発行することで、出入国在留管理局が6か月の在留資格「経営・管理」を許可します。
この制度を利用すれば、来日後にオフィス開設や資金調達を進めながら要件充足を図り、本来の経営管理ビザへ移行することが可能です。
「経営・管理」ビザの要件充足に時間がかかりそうな場合は、こうした制度の活用も検討してください。
4. 在留資格認定証明書(COE)交付申請の流れと必要書類
海外に在住している外国人起業家が経営管理ビザを取得するには、まず在留資格認定証明書(Certificate of Eligibility, COE)を日本の入国管理局に申請して交付してもらう必要があります。
これはビザ発給の事前審査にあたる手続きで、許可されると認定証明書(紙)が発行されます。認定証明書を海外の日本大使館・領事館で提示してビザを申請することで、スムーズに査証発給や入国許可が受けられます。
申請人(代理申請者)
COE申請は日本国内の出入国在留管理局で行います。申請者本人が短期滞在などで来日中の場合を除き、通常は受入れ企業の関係者や行政書士(入管取次者)が代理人として申請します。
設立した会社の代表取締役(予定者)である申請人本人がまだ日本に居ない場合、代理申請が必要です。司法書士や行政書士に会社設立を依頼した場合、引き続き在留資格申請も代行してもらうことができます。
申請先は会社の所在地を管轄する地方出入国在留管理局で、手数料は無料です。
審査期間
在留資格認定証明書交付申請の審査には、およそ1〜3か月を要します(業務繁忙期や内容次第ではさらに長引くこともあります)。
許可が下りると代理人宛てにハガキ等で通知があり、認定証明書を受け取ります。その後、申請人に国際郵送し、本国の日本大使館等でビザ発給手続きを行います(ビザ申請から発給まで通常1〜2週間程度です)。
必要書類
経営管理ビザのCOE申請では、会社経営の実態と申請人の適格性を示す多くの資料提出が求められます。主な書類は以下のとおりです。
- 共通書類
在留資格認定証明書交付申請書(所定様式)1通、写真(4cm×3cm)1葉、返信用封筒(切手も貼付)。申請書は出入国在留管理庁のウェブサイトからダウンロードできます。
写真は最近3ヶ月以内のものを指定サイズで用意します。 - 会社および事業に関する書類
事業内容や会社の体制を証明する資料として、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)、定款の写し、会社案内やパンフレット(設立趣意書、役員一覧、事業内容や取引計画の説明資料など)、事業計画書を提出します。また新設会社の場合は税務署に提出した法人設立届出書の写し、営業許可等が必要な業種ではその許可証の写しも必要です。
さらに、役員に就任する場合は定款に役員報酬規定があればその箇所の写しなど、役職や報酬に関する資料も添付します。 - 事務所に関する書類
事業所の存在証明として、不動産登記簿謄本や賃貸借契約書の写し(事務所所在地の権利関係がわかるもの)を提出します。
賃貸の場合は使用目的に事務所利用が含まれていることが重要です。そのほか、事務所や店舗の内部・外観写真も求められます。
写真には社名看板やオフィス設備が写っていることが望ましく、事業実体の裏付けとして重要です。 - 申請人本人に関する書類: パスポートのコピー(顔写真ページおよび出入国スタンプ押印ページ)、履歴書(学歴・職歴を詳細に記載したもの)
学歴・職歴はビザ審査で参考資料となり、特に経営や管理の経験があれば3年以上であることを明記します。
また、理由書(経営管理ビザが必要な理由や事業への意気込み等を記載)や、資金の形成過程を示す資料も重要です。
資金資料とは、資本金500万円をどのように用意したかを示す証拠で、例えば申請人名義の預金通帳コピー、本国からの送金記録、親族から借りた場合は借用証明や援助声明、過去の収入貯蓄実績などが該当します。
入管は資金の出所に不透明な点がないか厳しく審査するため、資金調達方法と使途を説明する書類を整えておきましょう。
以上は新設会社(カテゴリー4)の典型的な必要書類です。
事例によって追加資料を求められることもあります。
提出書類は全て日本語または日本語訳付きで用意し、不足がないよう綴じ込みます。書類一式が揃ったら入管窓口へ申請し、交付を待ちます。
交付された在留資格認定証明書は申請人に送り、日本大使館での査証申請時に提出します。
認定証明書があることで査証発給・入国許可が迅速に行われます。
5. 設立前後のスケジュールと注意点
全体のスケジュール感
外国人が会社設立から経営管理ビザ取得まで完了するには、早くても約3ヶ月、通常は4〜6ヶ月程度を見込んでおく必要があります。
具体的には、会社設立準備と登記完了まで1ヶ月前後、在留資格認定証明書の審査に1〜3ヶ月、査証発給に数週間といった流れになります。
ビジネス開始時期に希望がある場合は、このタイムラインを逆算して早めに動き出すことが重要です。特に物件探しや資金調達に時間がかかるケースも多いため、余裕をもった計画を立てましょう。
資本金払込と銀行口座の問題
前述のとおり、非居住外国人のみで会社を設立する際には資本金の払込口座確保が一つの壁になります。日本では銀行口座開設に厳しい本人確認があり、代表者が日本に住所を持たない場合は法人口座どころか個人口座の開設も困難です。
このため、多くの場合は
- 日本在住の協力者を発起人または代理人に立て、その人の口座に資本金を払い込む方法
- 日本進出した外国銀行の口座開設サービスを利用する方法
- スタートアップビザ等を活用して一度在留資格を得て自分名義で口座開設する方法
などが取られています。
いずれにせよ、資本金500万円もの現金を動かすため、資金の出所証明やマネーロンダリング防止の観点からも銀行・入管双方に説明できる準備が必要です。
入管提出用の「資産形成過程資料」でしっかり立証できるよう、振込元口座の残高証明や海外送金票、借入契約書などは大切に保管してください。
設立後からビザ取得までの過ごし方
会社設立登記が完了した後、経営管理ビザが下りるまでは実質的に日本で経営活動はできません。
短期滞在ビザ等で一時入国している場合も、資格外活動許可がない限り事業活動はできないので注意が必要です。認定証明書の結果を待つ間は、本格稼働に向けた準備(市場調査、設備の選定、採用面接の段取り等)に専念し、ビザ取得後すぐに事業をスタートできるよう計画を進めましょう。
また、会社の銀行口座開設は代表者の在留カード提示が求められる場合が多く、ビザ取得後まで口座開設を待たねばならないことがあります。
この点についても、ビザ取得直後に速やかに銀行手続きを行えるよう、必要書類(登記事項証明書や印鑑証明書、事業計画書のコピー等)を準備しておくと良いでしょう。
各種登録・届出のタイミング
税務署や社会保険の届出期限にも留意が必要です。法人設立届出書は設立から2ヶ月以内、社会保険新規適用は5日以内(任意適用の場合も早めに)など、期限が決まっています。
ビザ申請中であってものんびり構えていると届出漏れになる恐れがありますので、設立後の手続きチェックリストを作成し、期限管理を徹底してください。
専門家への相談
万一ビザが不許可になると、事業自体継続できず、せっかく設立した会社や契約したオフィス・店舗を手放す事態にもなりかねません。
取引先との信用や初期投下資金の損失を考えると、絶対に失敗は避けたいところです。そのため、手続きを始める前に経験豊富な専門家(行政書士や弁護士)に相談し、書類のブラッシュアップや事業計画についてチェックを受けることを強くおすすめします。
費用はかかりますが、不許可リスクを下げる保険と考えれば安いものです。
6. よくある失敗例と入管審査でのチェックポイント
最後に、経営管理ビザの申請で陥りがちな失敗例と、入管が注視するポイントをまとめます。
過去の不許可事例から学び、万全の準備をしましょう。
事務所の実態不足
住所だけ借りて中身がないオフィスではビザを貰えません。
あるケースでは入管が調査したところ郵便受けや玄関に社名表示がなく、室内にも事務機器や帳簿類が一切ない状態でした。このケースでは事業所が単なる居宅と判断され不許可となりました。
また、別のケースでは事務所契約が本人・会社名義ではなく従業員個人名義で、しかもその従業員の居住用に使われていたため、「事業所を適切に確保していない」と見做され不許可となりました。
対策
事務所は会社名義(または代表者個人名義)で賃貸し、契約上事業用途が許可された物件を使用しましょう。
小規模でもデスクやパソコン、電話回線等を備え、社名看板も掲示して実際の事業を営む外観を備えていることが必要です。
入管には契約書や写真を提出し、事務所の具体的状況を説明できるようにします。
資金要件の誤解
「とりあえず500万円を用意しておけばビザが取れるだろう」という誤解は禁物です。
実際には、入管はその500万円がどうやって調達され、何に使われるかまで厳しくチェックします。
例えば親族から借りた資金をただ口座に入れただけでは、「借金で一時的に残高を作っただけではないか?」「返済義務が事業継続に支障を来さないか?」といった観点で追加資料の提出を求められることがあります。
また、申請時に500万円あっても、直後に大半を引き出して個人用途に使ってしまえば事業継続性に疑問が生じ、更新時に不許可となりかねません。
対策
資本金・投資資金は可能な限り事業目的に使用し、帳簿や契約書で資金使途を明示できるようにします。資金の出所についても聞かれたら明確に答えられるよう、送金証明や借入 契約書、援助者の誓約書などを用意しておきましょう。
ビザ取得後も事業計画に沿って資金を適切に運用し、次回更新時にも事業規模(資産残高や売上規模)が維持できていることが理想です。
事業計画の不備
入管審査官は提出された事業計画書からビザ申請者の事業の将来性を読み取ります。市場ニーズの検証が甘い計画や収支予測が非現実的な計画は不信を招きます。
特に売上ゼロで赤字続きの計画だと、「この事業で生活できるのか?」「在留中に不法就労に流れないか?」と懸念されかねません。
対策
事業計画書には市場調査データや具体的なマーケティング戦略を盛り込み、少なくとも数年後には黒字転換する見通しを示しましょう。
取引先や顧客候補がいれば名前や見込み数量を書く、自己資金で耐えられる期間を明示する、など現実味のある計画にします。
また計画と資金使途、定款記載目的が矛盾しないよう整合性にも注意してください。
経験・知識の不足
経営に必要な知識や経験が全く見受けられない場合も懸念材料となります。
形式上は経営者であれば経験不問ですが、例えば全く異業種から突然参入しようとする場合や、若年で経営実績がない場合などは、補足説明としてなぜ成功できると考えるかを論理立てて伝えることが望ましいでしょう。
対策
履歴書や理由書で、自身の経歴のどの部分が今回の事業に役立つかをアピールします。
関連する資格・スキルがあれば申請書類に添付する、共同経営者やメンターとして日本人有識者のサポートがあるならその旨を説明する、など工夫します。
入管は「この人に事業を任せて大丈夫か」という視点でも見ていますので、人材面の不安を払拭する情報提供が有効です。
書類の不備・齟齬
提出書類に不備や矛盾があると審査が長引いたり不許可になったりします。
例えば定款の商号と申請書の会社名スペルが一致しない、事業所住所と賃貸契約書の住所表記が微妙に異なる、提出資料間で事業内容の記載に食い違いがある、といったケースです。
対策
提出前に専門家のチェックを受けるか、ダブルチェック体制で漏れを防ぎましょう。
日本語の誤字脱字や数字の単位ミスなど細かい点も見直し、完璧な書類を出すという気概で臨みます。
また、入管から追加資料の要求(補正通知)が来た場合は迅速かつ的確に対応し、期限内に提出してください。
以上、典型的な注意点を挙げましたが、経営管理ビザの審査は総合判断です。
「この要件さえ満たせば絶対大丈夫」というものではなく、事業計画・資金・人材・設備といった要素がバランスよく揃って初めて許可が下ります。
不安な点は事前に潰し、入管審査官の立場になって準備を進めることが成功への近道です。
まとめ
外国人による日本での会社設立と経営管理ビザ取得には、多くのハードルと手間が伴います。
しかし、適切に準備を行い,要件を満たせば、日本で自ら事業を興す道が開けます。本記事で解説した流れやポイントを踏まえ、ぜひ万全の計画でチャレンジしてください。
その際には公式情報(法務省入管局のガイドやJETROの資料等)も参照しつつ、必要に応じて専門家の力も借りながら進めると安心です。