他人名義のパスポートによる不法入国

他人名義のパスポートによる不法入国について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

※以下の事例はフィクションです。

F国出身のAさんは今から15年前に、F国から「興行」の在留資格で来日しました。
当時「興行」ビザでF国から日本に働きに来る人が大勢いました。
F国から「興行」ビザで来日した人の多くが、日本の各都道府県にあるパブやクラブでショーをしたり、歌手として、時には接客として働きました。
Aさんは自分が日本で働くために必要な手続きについてAさん自身がよくわかっておらず、日本への在留申請手続きは全てブローカーに任せていました。
ほどなくしてAさんはクラブで働き始め、時々お客さんの席に同席して接客をすることもありました。
Aさんがお店で働き始めてからしばらくして、お店の常連だった日本人のBさんと親しくなり、二人は知り合ってから半年後に結婚しました。
結婚してから今年で10年がたち、AさんとBさんの間には男の子と女の子が出来ました。
2人の子供たちは日本国籍です。Aさんはやさしい夫と2人の子供たちに囲まれて大変幸せな毎日を過ごしています。そんなAさんですが、Aさんには人には言えない悩みがありました。
実はAさんの本国での名前とパスポートや在留カードの名前が違うのです。
Aさんが初めて日本に来日したときはまだ19歳でした。

当時Aさんは日本の法律では未成年になることから、ブローカーがAさんが日本で
「タレント」として働けなくなることを恐れ、2つ年上で当時21歳のいとこの名前を使ってパスポートを作ったのでした。Aさんも自分のパスポートの名前と誕生日が違うことについて、これも来日して働くための方法だろうと特に気にすることはありませんでした。
最近F国にいるいとこから「海外に住んでいる男性と結婚して海外で暮らします。パスポートを作るので私の名前を返してください」と連絡がありました。
Aさん自身はいとこの幸せを祝福する気持ちはやぶさかではありませんが、いとこに名前を返して自分が本名になると、自分がいとこの名前を使って不正に日本に入国したことが入管や警察に発覚してしまうかもしれません。そうなると自分の在留資格が取消されてF国に強制送還されるかもしれないことをAさんは心配しています。Aさんは今の幸せな生活を失いたくありません。
いとこは「Aさんが名前を返してくれないなら、入管に報告します」とまで言っています。
Aさんは一体どうすればいいのでしょうか?

Aさんは他人名義のパスポートでパスポートで入国していますが、このことは一体何罪にあたるのでしょうか?出入国管理及び難民認定法の条文には何と書いてあるでしょう?

外国人の来日について

出入国管理及び難民認定法(以下法)
第3条  次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に入ってはならない。
一 有効な旅券を所持しない者(有効な乗員手帳を所持する乗員を除く。)

以下,条文の解説をします。

日本に入国する外国人が、自分の旅券(パスポート)ではなく他人名義の旅券を所持している場合には、その旅券が旅券自体としては有効なものであっても、当該外国人は、「有効な旅券」を所持していることにはならないとされています。

いとこの名義を使ったパスポートで日本に入国したAさんは、法3条違反となります。
それでは、他人名義のパスポートで入国した場合はどれくらいの罪になるのでしょうか?
法文では,次のように規定されています。

法第70条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。
一 第3条の規定に違反して本邦に入った者

Aさんのいとこ名義のパスポートでの入国は、入管法3条違反であり、「3年以下懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科」の刑罰が規定されています。
また、不法入国の場合は、法70条第2項により公訴時効がありません。
従ってAさんは不法入国で何年たっても刑事罰に問われる可能性があります。

在留資格への影響

Aさんは来日当初、「興行」の在留資格でした。
その後Bさんと結婚して「日本人の配偶者等」に変更になり、その後は永住資格申請をして申請が認められ、現在の在留資格は「永住者」です。
この場合、Aさんの「永住者」の在留資格はどうなるのでしょうか?

法律上次のような規定があります。

【在留資格の取消し】法22条の4
法務大臣は、別表第一又は別表第二の上覧の在留資格をもって本邦に在留する外国人
(第61条の2第1項の難員の認定を受けている場合を除く。)について、次の各号に掲げる事実が判明したときは、法務省令で定める手続きにより、当該外国人が現に有する在留資格を取消すことができる。
一 偽りその他の不正の手段により、当該外国人が第5条第1項各号のいずれにも該当しないものとして、前章第1節又は第2節の規定による上陸許可の証印(第9条第4項の規定による記録を含む。)又は許可を受けたこと。

他人名義によるパスポートでの入国は法3条違反となり、法3条違反は法第5条1項第八号ハに該当します。
在留資格の取消しを定めた法22条の4第1項1号に法第5条1項第八号ハが含まれるので、Aさんの現在の在留資格である「永住資格」は取消しの対象となります。
また、Aさんの他人名義のパスポートによる不法入国は法第24条第1項1号により、退去強制の対象となります。

入管当局も他人名義のパスポートの使用については監視を強め、摘発に積極的になっています。
参考:出入国管理局 他人になりすまして旅券(パスポート)を不正に取得する事案が発生していることから、不正取得防止のため審査を強化します

まとめ

まとめるとAさんはいとこ名義のパスポートで入国したことにより、現在の在留資格である法22条の4第1項第1号から「永住資格」の取消し、法24条第1項第1号により退去強制、法70条第1項第1号により3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万以下の罰金、場合によっては懲役刑と罰金刑の両方を受ける可能性があります。

結論として、Aさんはどうしたらいいのでしょうか?
Aさんの他人名義での不法入国が入管に報告されると、Aさんは刑事罰の対象となっていることから逮捕・起訴され有罪判決を受けるかもしれません。仮に逮捕・起訴されなくても行政処分として在留資格は取消され、強制送還されることは十分考えられます。
そうなるとAさんがこれまで日本で築き上げてきた生活は根底から覆ってしまう恐れがあります。
このままAさんは何もせず無事に時間が過ぎ去るのを待つのも一つの方法ですが、いつか予期せぬことで不法入国が警察や入管に発覚することは十分に考えられます。
Aさんにとって一番ベストな選択は、入管手続きを専門にしている弁護士・行政書士に相談してみることです。
Aさんのケースは事実と法(出入国及び難民認定法)が複雑に絡みあっており、これを1人で解決するのは非常に困難です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では不法入国からの在留資格再取得も取り扱っております。他人名義のパスポートを使用して不法入国され、現在の在留資格についてお困りの方は、お一人で悩まずに是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

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