重国籍と国籍選択について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
(架空の事例です。)
1.重国籍と国籍選択について
A子さんの父は戦前日本の統治下にあったT国の国籍で、母は日本国籍です。
A子さんの両親はA子さんの父親が日本の大学に留学しているときに留学先で知合い結婚しました。
父がT国籍でありA子さんもT国で生まれたことから、A子さんの両親はA子さんにT国籍を取得させることにしました。
A子さんの父は、A子さんの母が日本人であり日本の血を引いていること、将来A子さんが日本に行って生活することもあるだろうと考え、T国にある日本大使館でA子さんが出生後まもなくして国籍留保の手続き(国籍法十二条、戸籍法百四条)を行いました。
A子さんは小学校、中学校、高校まではT国で学び、大学からは日本の大学で学ぶことになりました。
成績優秀のA子さんは日本の国立大学薬学部に日本の一般の受験生と同じ筆記試験を受けて見事に合格しました。
A子さんはT国と日本の重国籍者でしたが、日本で生活していくには日本国籍者である方が何かと都合がよいだろうと考え大学時代は日本人で通していました。
A子さんは大学卒業後はT国に帰国して、日系の製薬会社に就職しました。
就職してからほどなくして、A子さんの自宅に日本の法務省から1通の封筒が届きました。封を開けると中には国籍選択をすべきことを催告する書面が入っていました。
国籍法第十四条一項「外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有する事となったときが十八歳に達するときであるときは二十歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはそのときから二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。」日本の国籍と外国の国籍を有する人(重国籍者)は、国籍法で決められた一定の期限までにいずれかの国籍を選択する必要があります。
この期間を失念して国籍選択の手続きを取らなかったときの手続きについては国籍法十五条に規定されています。
第十五条一項「法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍を選択しないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。」
A子さんは重国籍者であることから、本来十八歳になったら自ら国籍の選択をしなければなりませんが、A子さんはこの規定を知らなかったので国籍法十四条に規定されている国籍選択の意思表示をすることができませんでした。しかしながらこの期限を徒過していたとしても、重国籍者はいずれかの国籍を選択する必要があることから、T国にある日本大使館を通じて法務省からA子さんあてに国籍を選択すべきことを催告する書面が届いたのでした。
T国に家族や友人が多くおり、勤務先も日系薬品メーカーであるものの現地採用であり原則日本への転勤は原則ないことから、A子さんは自分の国籍はT国を選択することにして日本国籍は離脱することにし(国籍法十三条)、国籍離脱届をT国にある日本大使館に届けました。
2.国籍離脱後の手続きについて
A子さんが日本国籍離脱の届出をしてから数年経ちました。
A子さんは勤務する日系製薬会社で順調に昇進して管理職の立場になり、部下を数人持つようになりました。
A子さんが管理職に昇進した翌年、A子さんの日頃の実績を評価していたA子さんの上司がA子さんを日本本社の管理職に推薦しました。
日本本社は東京にあり、T国にある現地法人よりも規模が大きく、本社採用の管理職となると給与も現試採用より格段に高くなります。
A子さんは今後の社内でのキャリアを考え日本本社転勤の話を承諾しました。
Q 現在A子さんの手元には日本国のパスポートとT国のパスポートの2つがあります。A子さんは日本の会社で働くのだから日本人として日本のパスポートで入国する方がT国の外国人として生活するよりも楽だろうと考え、日本国のパスポートを使って来日する予定です。A子さんは日本国籍離脱の手続きをしているのにも関わらず日本のパスポートを使って入国できるでしょうか?
A A子さんは国籍離脱届を在T国日本大使館に提出しており、国籍離脱届を大使館に届け出た時点で日本国籍は失われます(国籍法第十三条)。
A子さんの手元には日本国のパスポートがあり、まだ有効期間が経過していないことからこのパスポートを使って日本に入国できるかが問題となりますが、A子さんは日本国のパスポートを使って日本入国は出来ません。なぜならA子さんは国籍離脱手続きにより既に日本国籍を失っており(実質的に国籍を失っている状態)、A子さんのパスポートは本来効力がありません。
無効なパスポートを使って有効であるように装って入国した場合は、不法入国(法第七十条一項)として3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
そこでA子さんはT国のパスポートを使って入国しなければなりません。
Q A子さんが日本本社で働くためにはどのような在留資格が該当するでしょうか?
A A子さんが日本本社で働くために必要な在留資格として、「企業内転勤」「技術・人文・国際業務」「研究」等が考えられます。
これらの活動の在留資格認定証明書によりA子さんを日本本社側から呼寄せます。
Q A子さんは日本本社で知り合った男性と結婚し子どもが生まれました。A子さんはこの先日本で生活していこうと考え、もう一度日本国籍を取得したいと考えています。
A子さんが再度日本国籍を取得するのはどのような手続きが必要になるでしょうか?
A A子さんが再度日本国籍を取得するためには帰化による方法があります。
A子さんは以前日本国籍をあり現在日本に住所があるので、国籍法第8条第3項により、通常の帰化手続きよりも、居住歴、行為能力、生計要件の点で優遇されます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、国籍・帰化に関する手続きを取り扱っています。
重国籍で国籍についてお悩みの方は是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までお問合せください。