2023年6月9日、出入国管理及び難民認定法が改正され、令和5年12月1日から順次施行されることが決まりました。
我が国における難民認定についてどのような制度がとられているのかについて、難民認定申請で適用される条文の解説を中心に弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
難民認定手続きについてはこちらもご参考下さい。
このページの目次
「難民」とは?
そもそも難民とは具体的にどのような人たちを指しているのでしょうか?「難民」の定義については、難民条約1条において以下のように定義されています。
第1条【「難民」の定義】
(a)人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること
(b)国籍国の外にいる者であること
(c)その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者であること
の3つの要件に該当する人を定義しています。「外務省HP」
以下,それぞれ解説をします。
(a)「迫害」について
「迫害を受けるおそれ」があるというのは,次のような状況にあることを言います。
「原則として政府の行為であり、一般の私的機関や私人によるものは、通常「迫害」になりません。
ただし、事実上政府と同様の立場にある機関の行為や、私的機関の行為であっても、政府がそれを意図的に容認し若しくは放置している場合には、「迫害」にあたり得る。」
次に「迫害」は、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見」を理由とするものでなければいけません。」
「「迫害」を受ける恐れがあるという十分な理由のある恐怖を有していたとしても、その「迫害」がこれらの理由によらない「迫害」である場合には、「難民」に該当しない。」
とされています。
「恐怖」の要件について
恐怖が十分に理由のあるもの「十分に理由のある恐怖」であることが必要であり、「十分に理由のある恐怖」といえるためには内心の恐怖が、客観的な状況により裏付けられていなければなりません。
「入管法大全P570」
我が国における難民認定申請手続きについて
外国人が難民を求める手続きは、出入国管理及び難民認定法(以下法)第61条の2で規定されています。
【難民の認定】【第61条の2 】
法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続きにより申請があったときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定(以下「難民の認定」という。)を行うことができる。
以下,条文の要件について解説します。
【本邦にある外国人】
日本の領域内にいる外国人・日本の領域内にいる外国人。不法滞在も含まれます。実際に日本の領域内にいることが必要です。
我が国の在外公館に庇護を求めて入ってきた者が、そこで難民申請を行うことはできません。
【法務省令で定める手続きにより】
法務省令では以下のように定められています。
入管法施行規則55条により難民認定を申請しようとする外国人は、申請書及び難民に該当することを証する書類を資料並びに写真を地方入国管理局に出頭して提出しなければならない。ただし、身体の故障その他申請書を作成することができない特別な事情がある者にあっては、申請書の提出に代えて申請書に記載すべき事項を陳述することができる。
(規則55条3項)
当該外国人が16歳に満たない者であるとき又は疾病その他の事由により自ら出願することができないときは、当該外国人の父若しくは母、配偶者、子又は親族がその者に代わって申請を行うことができる。
【申請があったときは】
難民の認定は、認定を受けようとする外国人からの申請を受けて行われるという意味です。
【その提出した資料に基づき】
難民であることの立証責任は、難民の申請をした外国人にあるということです。
なお法第61条の2の14で、法務大臣は、難民の認定に関する処分を行うために必要がある場合には、難民調査官に事実の調査をさせることができます。
難民調査官は、事実の調査として、難民の認定を行った外国人が提出した資料についてその真偽を調べ、また、必要があれば、当該外国人に対して更なる資料の提出を求め、自らも調査を行って法務大臣が難民の認定の可否を判断するために必要な資料の収集を行う。
法務大臣は難民調査官の調査の結果を踏まえ難民認定の可否を判断します。
「入管法大全562~563」
法務大臣の判断には以下3種類の判断があります。
①難民認定・在留許可
②難民不認定・人道的配慮による在留許可
③難民不認定・在留不許可
難民不認定の処分・難民認定の取消しの処分に不服のある外国人は、法第61条の2の9第一項により法務大臣に対して異議申し立てをすることができます。
「法第61条の2の9第一項」
次に掲げる処分に不服のある外国人は、法務省令で定める事項を記載した書面を提出して、法務大臣に対して異議申立てをすることができる。
一 難民の認定をしない処分
二 第61条の2の7第1項の規定による難民の認定の取消し
この異議の申立ては難民申請を行った外国人が処分の通知を受けた日から7日以内に行う必要があります。
【申立て期間の特例】
法61条の2の9第二項で定める異議申立期間については行政不服審査法の特則を定める規定となっています。
行政不服審査法第4条第1項は、「外国人の出入国又は帰化に関する処分(第10号)」を行政不服審査法の規定による審査請求及び異議申立ての対象から除外していますが、
難民の認定に関する処分は除外していない。」ので、難民の認定をしない処分・難民の認定の取消しの処分に対しては、異議申立てが認められます。
行政不服審査法第45条の規定する異議申立期間は60日間のところ、難民の認定をしない処分については第61条の2第2項の通知を受けた日から、
また、難民の認定の取消しについては、第61条の2の7第2項の通知を受けた日からそれぞれ7日以内とすると定めています。
行政不服審査法による異議申立て期間よりも短い期間が定められているのは、難民であるか否かは、難民申請を行った外国人が最もよく知りうる立場にあることによります。
【法61条の2の9第3項ー難民審査参与員の意見聴取】
法務大臣は、難民の認定をしない処分又は難民の認定の取消しに対する異議申立てに対する決定を行うにあたっては、難民参与員の意見を聞かなければならないと定めています。
難民参与員は諮問機関であり難民参与員の意見には法的拘束力はありません。
3人の難民参与員によって構成される班が、一つの異議申立て案件を担当し合議制ではありません。それぞれが異なる意見を提出することもありえます。
法務大臣は難民参与員の意見を参考にしながら、難民の認定をしない処分又は難民の認定の取消しに対する異議申立てに対する決定を行います。
以上が難民認定申請から法務大臣の裁決までの条文上での流れになります。