不法就労における企業側の予防対策について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
1.就労資格のない外国人が日本で働くための道具として、偽造在留カードが出回っています。
最近の偽造在留カードの中には大変精巧に作成されていて、素人目には本物と偽物の区別がほぼつかない物があります。
偽造在留カードを作成する目的は色々考えられますが、目的の一つに偽造在留カードを使って身分を欺いて事業所で働く目的があると考えられます。
不法滞在者の中には、不法滞在中に犯罪を生業にして生計を立てるよりは、きちんとした事業所で働いて安定収入を図る方が安全に生活出来て稼いだお金を本国に送金しやすいと考える者も少なからずいます。
就労資格のないにもかかわらず安定した仕事と定期収入の機会を狙って求人募集をしている事業所の面接を受け「自分は本当は在留資格がなく不法滞在なので本来仕事はできませんが、採用されたら日本人よりも頑張りますから採用してください」とアピールしたも、採用どころか不法滞在で入管に通報されるでしょう。
そこで偽造在留カードを作成して、人手不足で悩んでいる事業所をだまして就労する機会を得ようとします。
近年,中小メーカーを中心に人手不足が慢性化しており、中小メーカーを中心に派遣会社を通して募集しても人が来ない、ハローワークを通しても人が来ない等人手不足に悩む企業が多く、喉から手が出るほど人手が欲しい状況の中で、「採用するなら日本人限る」から「きちんと仕事してくれるなら外国人でも構わない」と企業側の採用マインドが変化してきています。
こうした背景において、人手不足で悩んでいる会社につけ込み就労資格のない外国人をあっせんして人手不足に悩む事業所に送り込むブローカーも絡んでいます。
2.偽造在留カードを提示されたことにより、正規の在留カードであると誤信して就労資格のない外国人を雇用した場合の受入れ側の責任について。
偽造在留カードであることを見抜けずあたかも就労資格のある外国人と思い込んでしまい、不法滞在者を主とする就労資格のない外国人を雇用してしまった場合、不法就労者を受入れた側は不法就労を見抜けなかったことについて不法就労助長罪等、不法就労に関する罪の成立を免れることはできるでしょうか?
不法就労助長について定めた入管法第七十三条の二には
「前各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らなかったことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。」
とあることから、単に不法就労であることを知らなかったというだけでは不法就労をさせた責任を免れることはできません。
不法就労助長罪の適用を免れるためには、採用に当たり不法就労であることについて過失がなかったことまで求められます。
外国人の採用にあたって,「本当に働けるビザを持っているのか」という点を,適切な方法できちんと調べなければならないのです。面接のときに「ビザを持っていますか?」と口頭で聞くだけでは,「適切な注意を尽くさなかった」とされ,本当に不法就労であることを知らなかったとしても逮捕されたり,処罰されたりしてしまうことがあるのです。
また,不法就労をした側の外国人は、刑事罰の有無にかかわらず強制送還の対象となります。
例えば強制送還された外国人がメーカー等の生産工程に配属されていた場合、生産工程は作業者の人員区分が決まっているので、強制送還されて一度に何人もの人員が欠けると生産工程が人員不足でストップしてしまい、指定された期日に製品を納品することができないことも考えられます。
そうなると不法就労者を雇用してしまった事業者側は、経済的にも信用の面でも甚大なダメージを受けるおそれが生じます。
それゆえ継続的で安定した事業経営の為には、不法就労者の雇用は絶対に避けるべきです。
3.採用する側が偽造在留カードを見破る具体的方法について
在留カード等読み取りアプリを活用する方法があります。
在留カード及び特別永住者証明書のICチップに記録された氏名等の情報を表示させ、在留カード等が偽造されたものでないことを確認できるアプリケーションです。
偽造在留カードを見破るうえで効果的な方法ですが、確認には本人の同意が必要です。
もし本人が在留カードのアプリ確認に同意しないなら雇用は控えるべきです。
もう一つ偽造在留カードを見破る有効な方法として、採用にあたり住民票の提出を義務付けるという方法があります。
平成24年7月9日以降、3か月以上日本に滞在する外国人には日本人と同様に住民票が作成されることになりました。住民票と在留カードはセットになっており、在留カードが発行されれば住民票が発行され、在留カードが発行さなければ住民票も発行されません。
万が一在留カードの読み取りアプリの使用方法を間違っていたりカードの見落としがあっても、住民票と在留カードの記載事項を照合することにより,偽造在留カードを見破ることができます。
採用予定の外国人に住民票の提出を求めたときに、住所変更したので住民票がまだ出来ませんという回答や在留資格変更をしてまだ住民票に記載事項が反映されません、という回答があった場合は、住民票に変更事項が記載されるまで本採用は控えたほうが賢明でしょう。
住民票の偽造も全く考えられなくはないので、委任状を作成して本人の代わりに採用者側が住民票を取り寄せるという手もあります。
また技能実習生の転職は原則認められておらず、特定技能外国人の転職については事前に在留資格変更許可が必要であるということは、外国人を雇用する側の前提知識として押さえておくとよいでしょう。
以上不法就労と受け入れ側の対策について解説をしました。
外国人を不法就労させたことにより問題を抱えている事業者の方や外国人従業員の採用に当たって心配な方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
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