永住資格の取消し事由追加について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
2024年の国会で入管法の改正案が審理され、可決された場合には入管法が大きく変わります。
主要な改正点は2点あります。
一点目は、技能実習制度が廃止され新たに育成就労制度が設けられ関連する出入国監理及び難民認定法の一部の改正。
二点目は、永住資格の取消し事由が追加です。
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永住資格が取り消される場合
育成就労制度と永住許可の取消し事由については一見無関係なようでいて、実は無関係ではないようです。
新たに設立される育成就労制度や特定技能1号、2号等による将来的な外国人労働者の受入れの急増に伴い、増加した外国人労働者が永住資格者に移行する場合に備えて、経済的に余裕のない永住者を増加させないために、今回の国会での入管法改正により「故意に公課の支払いをしないこと」を永住資格の取消し事由として追加したとみるのが妥当です。
「故意に公課の支払いをしないこと」とは、意図的に税金をごまかしたり隠したりして、本来の収入に見合った納税をしないことです。
永住資格は「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」といった身分による在留資格の場合等を除いて、原則として日本での在留期間が継続して10年以上、そのうち就労資格が5年以上あることが最低限必要であり、直近過去5年分の収入、納税状況、直近2年分の社会保険加入状況が審査されます。
指定された期間内で税金の滞納や社会保険の未払いがあるとまず永住許可は取得できません。
永住権の取得が難しくなる?
近年永住資格許可は大変ハードルが高くなっており、税の滞納や社会保険の未納がないのは当然として、特に収入の要件が厳しくなっています。
実務を通しての実感として、扶養家族の有無や人数によって多少の変動がありますが、今の永住申請は収入に関しては日本人の平均年収程度は必要とされているようです。
日本人でも社会保険未納や税金の滞納、平均年収に届かない家庭は相当数いるだろうことを考えれば、現在の永住資格審査は日本で暮らす外国人に平均的な日本人以上の生活水準を求めていることになり、実感として永住審査は10年~20年前と比べるとかなり審査が厳しくなっていると思います。
20年~30年前に永住資格を取得した方に話を聞くと昔は本当に永住資格を取得するのが容易だったということです。
今後は税金を最低5年分期限通りにきちんと払って永住審査を取得しても、将来も永続的に永住資格が認められるわけではなく、永住資格取得後に税金の滞納が発生すると永住資格取消しのリスクが発生するということになります。
これから永住が本当に取り消されるのか?
「永住資格を取消されたくないなら、税金をきちんと払えば問題ないじゃないか?」という見解もありますが、日本人でも会社をやめたり倒産して一時的に職を失ったりした場合に税金の滞納が発生する場合もあると思います。
日本人の場合は税金の未納があっても延滞税を払って分割支払いにしてもらうとか、預貯金から差し押さえたりする処分がなされる場合がありますが、決して日本国籍までは失われません。しかし永住資格者の場合、税金の未払いがあれば在留資格まで取消されて日本に滞在できない危険が生じる点で、永住資格取得者にとって今回の改正はかなり厳しいものになっていると思います。
条文上は「故意に」=意図的にわざと税金を払わなかった場合に永住資格が取消されるとなっていますが、「故意」の判断は入管が判断して、永住資格を取消すか否かも入管が判断するので、いわば検察官と裁判官の役割を入管が同時に担う立場であることに鑑みれば、在留資格の判断において極めて大きな裁量権を有する入管は、「故意」の判断において入管側が第三者のチェックなく独自に解釈することも想定され,人権保障上の観点からも問題が生じるかもしれません。
これまでの実務で扱った経験上税金を滞納していながら在留申請したケースも少なからず扱ってきましたが、そのような場合でも在留資格の申請は認められていたので、おそらく税金を滞納しているから永住資格をすぐに取消すというにはならない思います。
現在の運用では、永住資格は7年に一度永住資格の更新手続きを行いますが、手続上納税・課税証明書の提出は義務付けられていません。
そこで今後永住者の税金滞納は一体どうやって入管側が把握するのか問題となります。
現在でも約90万人いる永住者の一人一人の納税状況を入管側が全て捕捉出来るのかというと物理的にまず不可能でしょうし、そうなると永住資格も他の在留資格と同じように納税・課税証明書の提出を義務づけるのかという話になり、永住更新手続きの運用の在り方も変更する必要が出てきます。
おそらく永住資格については今後も運用の大幅な見直しや法改正があることが予想されます。